「急ぎで」と頼んだのに、3日経っても上がってこない。
曖昧な指示による認識のズレは、能力の問題ではありません。頼み方の問題です。この記事では、職場でズレを生む「曖昧語」を3つの型に分けて、それぞれをひと言で具体化する方法をまとめます。
僕自身、40代未経験でコンサル業界に入って、これで何度も痛い目を見ました。
「すぐやります」で3日が消えた話
「はい、すぐやります」
若手メンバーにそう言われて、僕は安心してしまいました。
来週の経営会議で使う資料の、ほんの一部修正。数枚のスライドを直すだけ。頭の中で「あの件は片付いた」とチェックを入れて、次の会議に向かいました。
3日後。
メールボックスに、修正版は届いていませんでした。
慌てて彼の席に行くと、申し訳なさそうにこう言われたんです。
「すみません、今日の夕方から取りかかろうと思ってました」
その瞬間にわかりました。
僕の「すぐ」は今日中。彼の「すぐ」は今週中のどこか。
同じ日本語を話していたはずなのに、たった2文字が3日分のズレを生んでいた。
結局その夜は2人で深夜まで残って仕上げました。会議には間に合ったけど、品質は本来の半分。
彼を責める気にはなれませんでした。曖昧な言葉で指示を出した僕のほうが悪いと、わかっていたので。
「すぐやります」ほど、信用できない返事はありません。
ただし、信用できないのは返事をした本人ではないんです。信用できないのは、その返事を成立させてしまった、こちらの頼み方のほうです。
「急ぎで」が伝わらない原因は、相手の理解力ではない
前職の同僚に「急ぎでって、何時間後だと思う?」と聞いてみたことがあります。
僕の感覚だと「半日後」でした。朝に頼んだなら昼まで、昼に頼んだなら夕方まで。次に話をするタイミングで、形になっていてほしい。
でも、ある人は「明日の朝イチ」と答えました。別の人は「3日以内」と答えました。
同じ会社の、同じチームにいた人たちです。
面白いのは、どの答えも間違っていないことなんですよね。
「急ぎ」という単語が、それ単体で時間を示しているわけじゃない。その人の過去の経験、いた組織の文化、今の忙しさ。そういうものが全部混ざって、その人の中の「急ぎ」の解像度が決まっている。
だから、こうなります。
上司は「急ぎで」と言ったつもりで、部下は「来週中でいい」と受け取る。部下は「急ぎで対応しました」と胸を張り、上司は「え、今頃?」と眉をひそめる。
どちらも自分が正しいと思っていて、どちらもある意味で正しい。
問題は、どちらが悪いかじゃないんです。「急ぎ」を誰も具体的な時間に翻訳しないまま、会話が流れていったことです。
認識のズレを生む「曖昧語」3つの型
現場で見ていると、ズレを生む言葉はだいたい3種類に分かれます。
時間の曖昧語
「急ぎで」「なるべく早く」「時間があるときに」「適宜」。
時間を指しているようで、何も指していない言葉たちです。受け取る側は自分の基準で埋めるしかありません。
指示語
「これ、見といて」「それ、対応しといて」「あの件どうなった?」
指示語は、お互いが同じものを見ているときにしか機能しません。対面なら画面を指させば済みますが、チャットの中では「これ」は宙に浮いたままです。
以前、リーダーが「それ、急ぎで対応しておいて」とSlackに投げたことがありました。担当者は直前にやり取りしていた報告書のことだと思って着手した。でもリーダーの頭にあったのは、クライアントからの返信待ちメールでした。
返信は遅れ、軽いクレームが入りました。担当者は、指示された報告書を完璧に仕上げていたのに、です。
基準の曖昧語
「普通に考えて」「ちゃんとやっといて」「しっかり詰めて」。誰の基準なのかが、どこにも書かれていません。
一番やっかいなのは、業務用語に化けたときです。
「対応済み」という報告を受けたとき、それは「メールを返信した」ことなのか、「相手から返信をもらって話がついた」ことなのか、それとも「問題そのものが解決した」ことなのか。
報告する側と受ける側で「済み」のラインが違っていることは、びっくりするほど多いんですよね。
なぜ曖昧な指示に「どういう意味ですか」と聞き返せないのか
ここまで読んで、「じゃあ普段から具体的に言えばいいだけでは」と思った方もいるはずです。
そのとおりです。でも、できない。理由が2つあります。
ひとつは、伝える側の思い込み。
自分の頭の中では「これ」も「普通」も明確に特定できています。だから、相手にも同じように見えていると信じ切ってしまう。省略している自覚すらありません。
もうひとつは、受け取る側の恐れ。
「『ちゃんと』って、どこまでやればいいですか?」と聞き返した瞬間、「そんなこともわからないのか」と思われそうで怖い。だから、わかったふりをして受け取ってしまう。
そして自分なりの「ちゃんと」で作業を進めて、後から眉をひそめられる。
つまり、ズレは能力の問題じゃないんです。伝える側の油断と、受け取る側の遠慮。この2つが噛み合ったときに生まれます。
曖昧な指示を具体化する方法|ひと言足すだけ
対策は、拍子抜けするほど簡単です。
時間には、具体的な時刻を添える
「急ぎで、今日の15時までに頼む」「急ぎで、今週金曜までに出せれば十分」
これだけで、お互いの頭の中に同じ時計が表示されます。
指示語は、固有名詞に置き換える
「これ、見といて」を「A社向け提案書の第3版、見といて」に。「あの件どうなった?」を「先週金曜に話した採用フロー見直しの件、どうなった?」に。
たった数文字、名前を足すだけです。
基準には、例をひとつ添える
「ちゃんと確認して」ではなく「誤字脱字と数字の整合性、この2点を確認して」。
それだけで、相手は何をすればいいか迷わなくなります。
そして、受け取る側にもできることがあります。
「つまり、今日中に初稿ということですね」と、言い換えて返す。
この一往復があるだけで、ズレはほとんど潰せます。聞き返すのが怖いなら、質問ではなく確認の形にすればいい。これなら「わかっていない人」には見えません。
言葉を整えると、手戻りと残業が減る
僕が40代未経験でコンサル業界に飛び込んで、知識も経験もほぼゼロの状態からなんとか生き残ってこられた理由。
それは頭の良さでもスキルの高さでもなく、この「言葉を整える技術」を少しずつ身につけたからだと、今では思っています。
丁寧な言葉を使いましょう、という話ではないんですよね。
曖昧なまま渡した仕事は、必ず自分のところに戻ってきます。手戻り、余計な会議、深夜の作り直し。ひと言の手間を惜しんだ結果を、後で何倍にもして払わされる。
言葉を具体化すると、実は自分の指示の輪郭も見えてきます。「自分は、何を、どこまでやってほしいのか」がはっきりする。相手のためにやっているようで、いちばん整理されるのは自分の頭なんです。
だから僕は、自分がラクをするために言葉を整えています。
「すぐやります」と言われて安心してしまったあの日から、僕は必ずこう返すようになりました。
「その『すぐ』って、何時?」
たったこれだけです。
この一言を挟むようになってから、「すぐやります」は信用できない返事ではなくなりました。言葉が変わったんじゃなく、頼み方を変えただけなんですけどね。
次に誰かに何かを頼むとき、送信ボタンを押す前に一度だけ読み返してみてください。時間、指示語、基準。この3つのうち、どれかが曖昧なまま残っていませんか。
ひと言足すだけで、あなたの3日後は変わります。
この「言葉のズレ」をテーマに、4冊目の本を書きました。曖昧語の見つけ方から、チームで共通言語をつくる仕組みまで、明日から使える形でまとめています。心当たりがある方は、のぞいてみてください。

