部下に頼むと半日かかる。自分でやれば30分で終わる。
こういう場面で手を出してしまう人は多いと思います。僕もそうでした。そして困ったことに、その判断はたいてい正しいんです。その作業だけを見れば、本当に自分でやった方が早い。
ただ、何度も繰り返して気づきました。自分が手を動かした日ほど、チーム全体は進んでいなかったということに。
IT業界で20年以上、プロジェクトを回す側にいて、40代でコンサルに移ってからも同じことをやってきました。この記事では、なぜ「自分でやった方が早い」がチームを遅くするのか、そして何を任せて何を自分で持つべきかを書きます。
上司が手を動かすと、何が止まるのか
作業に入ると、目が手元しか見なくなります。集中しないと終わらないので当然です。
その間に、3つのことが止まります。
判断が止まる
「これ、どっちで進めますか」と聞きに来た部下が、上司が没頭しているのを見て声をかけるのをやめる。あるいは自分で決めて進めて、あとでズレが見つかる。
詰まりが見えなくなる
誰がどこで止まっているかは、聞いて回らないと分かりません。作業をしていると、その時間がまるごと消えます。
先の準備が止まる
来週必要になる承認、他部署への依頼、外部の返事待ち。今日動かしておかないと来週間に合わないものが、目の前の作業に押し出されます。
そして一番やっかいなのがこれです。
手を動かした日は、進んだ感じがする。
自分の作業は成果物として残ります。止まったもののほうは何も残らないので、気づけません。
「任せた方が遅い」のに任せるべき理由
それでも任せるべき理由は、単純な掛け算です。
自分が資料を1本作れば、進むのは1本。部下3人の詰まりを外せば、3人が同時に動き出します。
上司が作業者と同じ土俵に立ち続けると、チームの速さは上司1人ぶんで頭打ちになります。しかも上司にしかできない「判断」と「詰まりの解消」をする人がいなくなる。
これは、優秀な部下を持った上司が「伸びる上司」と「伝書鳩になる上司」に分かれる話とも同じ構造です(AIに丸投げすると退化するのか)。差がつくのは能力ではなく、どの土俵に立つかでした。
何を任せて、何を自分で持つか
「全部任せろ」という話ではありません。線を引く基準を決めておくと迷いません。
任せていいもの
- 手順が決まっているもの:資料の作成、データの集計、定型の報告
- 正解が複数あって、本人の試行錯誤が成長になるもの:提案の組み立て、進め方の工夫
- 失敗しても取り返しがつくもの
自分で持つべきもの
- 判断そのもの:やるかやらないか、どこを削るか、誰に話を通すか
- 失敗すると取り返しがつかないもの:重要な顧客対応、締め切りが動かせない提出物
- 部下がまだ判断の材料を持っていないもの
迷ったら「これは作業か、判断か」で分けてください。作業は任せる。判断は持つ。この1本の線でかなり整理できます。
任せ方を間違えると「丸投げ」になる
任せるのと丸投げは違います。違いは、渡すものです。
丸投げは、作業だけを渡す。任せるは、判断の材料まで渡す。
任せるときに僕がやっているのは、次の5つです。
1. 終わりの条件を、先に一文で決める
「レビューの指摘がゼロになったら完了」なのか「一次版が出たら完了」なのか。ここが曖昧なまま渡すと、終わらない作業が生まれます。
条件が一文で書けないなら、まだ自分の中でも決まっていません。その状態で渡すと、必ず戻ってきます。
2. 優先する基準を伝える
「この案件は納期優先。多少粗くても日程を守って」
手順は伝えなくていいです。迷ったときに何を基準に決めるかだけ渡す。そうすると、部下は自分で判断して進められます(できる上司ほど、仕事を教えない)。
3. 詰まりそうなところを、先に外しておく
承認が必要なもの、他部署への依頼、環境の準備。これらは作業を始めた日には間に合いません。上司が先に投げておけば、部下はそこで止まりません。
4. いつ・誰が決めるかを先に置く
「決まらないから進めない」が、作業が止まる一番の理由です。定例まで待つと5日止まるなら、5分の判断だけ別に取る。決める場を先に用意しておきます。
5. 間に合わなかったときの逃げ道を決めておく
範囲を削るのか、期日を動かすのか、人を足すのか。追い込まれてから考えると選べる手が減ります。先に決めておけば、その場で即決できます。
この5つは、どれも手を動かす作業ではありません。でも、これをやらないチームは必ずどこかで止まります。
それでも手を出したくなったら
もどかしさは消えません。僕もいまだに手が伸びます。
そこで、手を動かす衝動を別のものに振り替えるようにしました。
「自分でやった方が早い」と思ったら、その作業をやる代わりに、誰かの詰まりを1つ外しに行く。
「あれ、進んでる?」と聞いて回る。止まっている理由を聞く。承認が要るならその場で取りに行く。判断が要るならその場で決める。
これは作業と同じくらい即効性があって、しかも効く範囲が広い。そして上司にしかできません。作業のほうは、極端に言えば誰でも代われるので。
例外:少人数なら、上限を決めて手を動かす
正直に書いておきます。
3人のチームで上司が兼任なら、手を動かさないと物理的に終わりません。「上司は作業するな」を原則論として振り回すと、現場が回らなくなります。
なので僕は、時間の上限で管理しています。
自分の稼働の何割までなら作業に使っていいかを先に決める。たとえば3割まで。残りの7割は、どんなに忙しくても判断と詰まりの解消に使う。
先に枠を切らないと、作業は無限にあるので、埋めようと思えばいくらでも埋まります。
まとめ
「自分でやった方が早い」は、その作業だけを見れば正しい。
でも上司が作業に入ると、判断・詰まりの発見・先の準備が同時に止まる。
任せるのは作業、持つのは判断。迷ったら「作業か、判断か」で分ける。
丸投げにしないために、終わりの条件・優先する基準・詰まりの先回り・決める場・逃げ道を渡す。
手を出したくなったら、代わりに誰かの詰まりを1つ外す。
今日、自分が何時間作業したかではなく、こちらを数えてみてください。
今日、自分が外した詰まりは、いくつありましたか。

