先日、企画書のたたき台をAIに出してもらって、ほとんどそのまま使いました。
速いし、助かる。文句のつけようがありません。
ただ、その日の帰り道でふと思ったんです。
この企画、僕はどこまで考えたんだろう、と。
AIに丸投げすると人は退化するのか。この問いには、実はもう答えが出ています。優秀な部下を持った上司がどうなるかという、AIが登場するずっと前からある話と同じ構造だからです。
IT業界20年以上、40代でコンサルに移ってから見てきたチームの話として書きます。
AIを「超優秀な部下」に置き換えると、問題がはっきりする
AIって、超優秀な部下なんですよね。
だいたいの分野に詳しい。文句を言わない。深夜でも即返す。こちらの説明が雑でも、それなりの形にしてくる。
そう置き換えた瞬間に、この不安は既視感のあるものに変わります。
- *自分より優秀な部下を持ったとき、上司はどうなるのか。**
これ、AIが出てくるずっと前から、どこの職場にもあった話です。しかも答えは、もう出ています。
優秀な部下を持った上司は、2種類に分かれる
IT業界で20年以上、コンサルに移ってからも含めて、いろんなチームを見てきました。
優秀な部下がついた上司は、はっきり2つに分かれます。
- *ひとつは、伸びる上司です。**
部下が技術的に自分を追い越しても、余裕があります。細かい実装は任せて、そのぶん別のことをやっている。この案件を受けるべきか、どこを削るか、誰に話を通すか。部下が触れない領域を引き受けています。
- *もうひとつは、伝書鳩になる上司です。**
こちらは、部下の出したものをそのまま上へ流します。中身を聞かれると「担当がそう言っているので」と返す。何か指摘されると、そのまま部下へ差し戻す。
判断が、どこにも足されていないんですよね。
見ていて思うのは、この人が最初から無能だったわけではないことです。むしろ現場出身で、昔は自分でやれていた人が多い。
先に書いておくと、これはきれいに2つに割れる話ではありません。ほとんどの人は、案件によって行ったり来たりしています。僕自身、得意な領域では前者の顔をして、専門外の案件では後者に近いことをやっていた自覚があります。
だから他人の話として書くつもりはないです。分かれるのは人ではなく、場面のほうかもしれません。
差がついたのは、能力ではなく「立ち位置」だった
じゃあ何が分かれ目だったのか。
僕が見てきた範囲だと、部下と同じ土俵に立ち続けようとしたかどうかでした。
伝書鳩になった上司は、たいてい最初は張り合っています。自分のほうが詳しくないと格好がつかないと思っている。
でも勝てません。相手のほうが時間を使っているし、そもそも専門が違う。
そこで何が起きるかというと、張り合うのをやめた瞬間に、何もしなくなるんです。土俵がひとつしかないと思っているから、そこを降りたら立つ場所がない。
伸びた上司は、負けることを問題にしていませんでした。
「その領域は君のほうが詳しいから任せる。で、これは今期やるべきなのか?」
こういう問いを出せる人は、部下が優秀になるほど強くなります。別の階層に立っているので、下が伸びても自分の価値が減らない。
AIと同じ土俵で張り合っても勝てない
ここまで書けば、AIの話は続きで済みます。
調べる、まとめる、整った文章にする。この土俵では、もう勝てないです。悔しいですが、認めたほうが早い。
問題はそこじゃありません。
- *その土俵を明け渡したあと、上の階層に移るのか。それとも何もしなくなるのか。**
AIが出した企画書をそのまま上に出して、質問されたら「AIがそう言っていたので」と答える。冗談みたいですが、構造としてはあの伝書鳩と同じです。
そして、こちらのほうがタチが悪い。相手が人間なら「あいつに聞いて」と言った瞬間に周りが気づきますが、AI相手だと誰にも気づかれません。出てきた成果物は、それなりに立派なので。
冒頭に書いた企画書の件も、正直これに近かったと思います。中身を問われたら、どこまで自分の言葉で説明できたか怪しい。だから他人事として書けないんです。
AIが絶対にやらないこと|責任は人間にしか負えない
とはいえ、AIを部下だと思うのは、あくまで比喩です。違うところもあります。
その中で、決定的なものがひとつあります。
- *AIは責任を負いません。**
人間の部下なら、間違えれば評価が下がるし、次から気をつけます。専門家なら資格を失うこともある。だから、わからないときは「わかりません」と言うんです。言わないと自分が痛いから。
AIは何も失いません。だから、知らない領域でも同じ調子で答えます。
これは能力の問題ではなくて、構造の問題です。責任を負わない相手は、「これは自信がない」という一番大事な信号を返してくれない。
裏を返すと、責任を引き受けるという仕事だけは、構造上ずっと人間に残ります。
AIがどれだけ優秀になっても、その企画が失敗したとき困るのは僕です。だったら、最終的に決めるのは僕でなければ筋が通りません。
ここが、上司側の土俵です。
AI丸投げで退化する人と、しない人の違い
そろそろ結論を書きます。
- *AIを持ったから退化するのではありません。**
優秀な部下を持った上司が全員ダメになったわけではないのと、同じです。ダメになったのは、自分の土俵を持たなかった人だけでした。
だから問いは「AIを使うと退化するか」ではなくて、こうなります。
- *AIに実務を明け渡したあと、自分は何をやっているのか。**
ここに答えがある人は、退化しません。むしろ、面倒な作業から解放されて、判断する回数が増えるはずです。
答えられない人は、静かに伝書鳩になります。しかも成果物は立派なので、当分は気づかれません。自分でも。
ただ、ここで正直に書いておきたいことがあります。
- *「上の階層に移ればいい」と言うのは簡単ですが、席の数は限られています。**判断する立場は、全員には配られません。実務を明け渡したのに、上に空きがない。この状態は普通に起こりえます。
そのときにできるのは、たぶん役職の話ではなくて、自分の担当範囲の中で決める回数を増やすことなんだと思います。どの順番でやるか、何を捨てるか、どこで確認を取るか。役職がなくても、決める場所は意外と残っています。
そこも手放したときに、退化が始まるのだと思っています。
僕がAIに対して決めている3つのルール
抽象論だけだと使えないので、自分の運用も書いておきます。
粗くても、自分の案を先に出す
AIの案を見てから考え始めると、その枠から出られなくなります。順番を守るだけで、かなり違います。
相談しない領域を決めておく
僕の場合は「この仕事を受けるか」「何をやめるか」といった判断は、AIに投げません。責任を負う部分は、自分で決めると決めています。
たまに素手でやる
月に何度かは、何も使わずに文章や資料の骨組みを作ります。できなくなっていたら、それが警告になる。測らないと、劣化には気づけません。
幸運かどうかは、持った人次第で変わる
超優秀な部下を持つことは、幸運です。
ただ、幸運かどうかは持った人次第で変わります。同じ部下がついても、伸びる上司と、伝書鳩になる上司がいました。
AIも、同じだと思っています。
いま自分がAIに任せている作業を、思い浮かべてみてください。
そのぶん空いた時間で、自分は何をやっていますか。
そこに答えがあるなら、心配はいらないと思います。

