「うちの上司、何も教えてくれない」
若い頃はそう思っていました。聞いても「まあ、やってみて」で終わる。不親切だと感じていました。
自分が任せる側になって、見方が変わりました。
- *教えないのは、不親切だからではありません。教えると育たないと知っているからです。**
ただし、これには決定的な条件があります。そこを外すと、ただの放置になります。
教えるのが上手い人と、仕事ができる人は別
以前、仕事ができない人ほど、教えるのが上手い理由という記事を書きました。
要点はこうです。手順を分解して説明できる人は、その仕事を「手順として」理解しています。一方、できる人は感覚で処理していて、言語化していない。だから説明が下手になる。
これは能力の高低ではなく、処理の仕方の違いです。
そして任せる場面では、この違いがもっとはっきり出ます。
できる上司が「教えない」ときにやっていること
見てきた中で、優秀な人ほど手順を教えません。代わりに何をしているか。
- *判断の基準だけを渡します。**
「この案件は納期優先。品質は多少落ちても日程を守って」「先方の部長が決裁者だから、そこに刺さる形にして」
手順は言いません。ゴールと制約だけ渡して、あとは任せる。
なぜかというと、手順を教えると、手順しかできない人が育つからです。
同じ状況が二度と来ないのが仕事です。手順を覚えた人は、少し条件が変わると止まります。判断基準を持っている人は、自分で組み立て直せます。
ただし「任せる」と「放置」は違う
ここが一番大事です。
教えないことが機能するのは、次の3つが揃っているときだけです。
1. ゴールと制約が明確に渡されている
「まあ、いい感じにやっといて」は放置です。何をどこまで、いつまでに、何を優先して。ここが曖昧なまま任せると、必ず手戻りします。
曖昧な言葉で渡した仕事は、必ず自分のところに返ってきます(「すぐやります」が信用できない理由)。
2. 詰まったときに聞ける状態がある
任せた側が忙しすぎて捕まらないなら、それは放置です。
任せるというのは、手を離すことであって、目を離すことではありません。
3. 失敗の範囲が決まっている
取り返しのつく範囲で任せているか。ここを見誤ると、本人も組織も傷つきます。
- *任せる側の仕事は、失敗していい範囲を設計することです。** これは教えるより難しい。
優秀な部下を持ったとき、上司は2種類に分かれる
任せ方の話は、そのまま上司の分かれ道につながります。
部下が自分より詳しくなったとき、伸びる上司はこう言います。
「その領域は君のほうが詳しいから任せる。で、これは今期やるべきなのか?」
- *別の階層に立っているので、部下が伸びても自分の価値が減りません。**
一方、部下の出したものをそのまま上に流すだけになる人がいます。中身を聞かれると「担当がそう言っているので」と返す。判断がどこにも足されていない状態です。
この構造は、AIを使うときにもそのまま当てはまります(AIに丸投げすると退化するのか)。実務を渡したあと、上の階層に移れるかどうか。
教えないほうがいい場面、教えるべき場面
万能ではないので、線を引いておきます。
教えないほうがいいのは、正解が複数ある仕事。提案の組み立て方、優先順位のつけ方、交渉の進め方。ここは本人が試行錯誤しないと身につきません。
教えるべきなのは、正解が1つしかない仕事。社内の手続き、ツールの使い方、締め日のルール。ここを「自分で調べて」と放り出すのは、単に時間の無駄です。
この2つを混同している人が多い印象があります。手続きを教えず、判断を教えすぎる。逆なんですよね。
まとめ
できる人が教えないのは、感覚で処理していて言語化していないから。
意図的に教えない場合は、手順ではなく判断基準を渡している。
ただし、ゴール・相談経路・失敗の範囲が揃っていなければ、それは放置。
正解が1つの仕事は教える。正解が複数ある仕事は任せる。
あなたが最後に部下に何かを頼んだとき、渡したのは手順でしたか、判断基準でしたか。

