異動や退職のとき、引き継ぎ資料を丁寧に作る人がいます。
手順を網羅して、例外も書き込んで、30ページの文書を仕上げる。休日まで使って準備する。
その人は評価されるかというと、たいてい何も起きません。
一方で「あとはよろしく」の一言で去った人が、特に困った様子もなく次に進んでいたりする。
理不尽に見えますが、構造を見ると理由があります。
丁寧な引き継ぎ資料が報われない理由
- *そもそも読まれていないからです。**
30ページの資料を、後任が最初から最後まで読むことはありません。読む時間もないし、読んでも頭に入りません。
理由は、後任がまだその仕事をやっていないからです。何が分からないかが、まだ分かっていない。 質問を持っていない人に、答えだけを大量に渡している状態です。
だから資料は開かれないまま置かれ、結局あとから電話がかかってきます。「あれ、どうなってましたっけ」と。
- *時間をかけたのに、電話は減らない。** これが引き継ぎで損をする、ということです。
真面目な人ほどハマる3つの罠
網羅しようとする
抜けがあると申し訳ない、と思う。だから全部書く。結果、量が増えて読まれなくなる。
- *抜けを恐れる気持ちが、そのまま読まれない資料を作らせています。**
「引き継いだ証拠」を作ってしまう
正直に書くと、これも混ざります。あとで「聞いてない」と言われたくない。だから網羅する。
これは自己防衛としては合理的ですが、後任にとっては役に立ちません。読み手のための文書ではなく、書き手のための文書になっています。
自分がいなくなった後まで責任を感じる
真面目な人ほど、引き継いだ後のことまで気にします。
ですが、そこまで背負う必要はありません。次の担当者は次の担当者で、自分のやり方を作ります。あなたのやり方を完全に再現させることが目的ではないはずです。
実は、僕は引き継ぎがあまり好きではありません
正直に書いておきます。
時間をかけて作っても読まれない。読まれないものに数時間かける感覚が、どうしても無駄に思えてしまう。
同じことを感じている人は多いはずです。
そして、その感覚は間違っていません。 無駄なのは引き継ぎそのものではなく、読まれない前提の資料を作ることです。
だから僕は、削る方向で解決しました。
損をしない引き継ぎは、3項目で終わる
今やっているのは、この3つだけです。手順書は作りません。
- *判断基準。** 手順ではなく、迷ったときに何を基準に決めるか。「A社は納期優先」「B社は遅れる連絡さえ入れれば待ってくれる」。手順は調べれば分かりますが、判断の癖は調べても出てきません。
- *詰まりどころ。** 自分が過去にハマった場所を3〜4個。「月次集計は前月末の締め処理が終わってから」。経験しないと分からないことだけ残します。
- *誰に聞けばいいか。** これが一番短くて、一番効きます。人の名前が分かっていれば、後任は自分で解決できます。
引き継ぎ資料の役割は、答えを全部渡すことではなく、答えに辿り着ける状態にすることです。詳しくは引き継ぎ資料が無駄に感じる人へにまとめました。
「あとはよろしく」も、実は損をしている
念のため逆側も書いておきます。
網羅しすぎても読まれませんが、ゼロだと止まります。
休み前に「あとはよろしく」とだけ残していく人がいます。書いた本人はラクになった気がしますが、休み明けに一番疲れるのは、たいていこの人です。
戻ってきたら判断が止まったまま案件が積み上がっている。誰も決められなかったからです。結局、休み前の状態に戻すところから始まります。
網羅と丸投げ、どちらも損をします。その間のどこかに、3項目分の線があります。
損をしない一番の方法は、普段から書いておくこと
もうひとつ。
判断基準・詰まりどころ・連絡先の3つは、引き継ぐときだけ必要なものではありません。普段から残しておけるものです。
日常的にメモしていれば、引き継ぎのために改めて作る作業が消えます。僕はメモをそのままAIに投げて整理させていて、引き継ぎのときはそこから抜き出すだけです(タスク管理はツールを変えても続かない)。
引き継ぎが憂鬱なのは、普段何も残していないから、そのタイミングで一気に作らされるからなんですよね。
まとめ
丁寧な引き継ぎ資料は、量が多いほど読まれない。
真面目な人ほど網羅し、証拠を作り、必要以上に背負う。
必要なのは判断基準・詰まりどころ・連絡先の3つだけ。
普段から書いておけば、引き継ぎという作業自体がほぼ消える。
次に引き継ぎを頼まれたとき、30ページ書く前に3行で足りないか考えてみてください。
