「なんであの人が辞めるんだ」
一番できる人が突然抜けて、現場が回らなくなる。あとから「もっと評価してあげればよかった」という話になる。
見てきた範囲では、待遇の問題であることは意外と少ないです。共通していたのは、もっと構造的なことでした。
- *仕事だけがその人に集中していて、役職はついていない。**
これに尽きます。
優秀な人に、仕事は自然と集中する
理由は単純です。頼む側からすれば、そのほうが速いからです。
急ぎの案件、面倒な調整、失敗が許されない場面。そういうものは、確実にこなす人のところへ行きます。悪意はありません。合理的な判断です。
その結果どうなるか。
- *その人がいないと回らない状態ができあがります。** いわゆる属人化です。
面白いのは、属人化した本人が困っていないケースが多いことです。むしろ頼られている実感があるので、しばらくは悪い気がしない。周りも「あの人がいるから大丈夫」と安心している。
問題が表面化するのは、もっと後です。
負荷は増えるのに、権限は増えない
ここが分かれ目です。
仕事が集中しても、役職は自動的にはついてきません。
役職はポストの数で決まります。実力とは別の話です。上が詰まっていれば空きませんし、年次や社内政治も絡みます。
だから、こういう状態が生まれます。
- *責任だけが増えて、決める権限は与えられない。**
自分が回している案件なのに、方針は別の人が決める。しかもその人は現場を知らない。判断が遅れて、そのしわ寄せは全部こちらに来る。
これが続くと、どこかで気づきます。
「自分は都合よく使われているだけではないか」
辞めるのは、限界が来たからではない
もうひとつ、誤解されやすい点があります。
優秀な人が辞めるのは、忙しさに耐えられなくなったからではありません。 その人たちは、たいてい忙しさには耐えられます。
辞めるのは、この先も同じだと分かったときです。
来年も同じ量の仕事が来て、来年も役職はつかない。そう予測できた瞬間に、選択肢を探し始めます。
僕がずっと持っている転職の判断軸は「未来の選択肢が減らないか」の一点です(転職しようか迷ったときの判断基準)。負荷だけが増えて権限が増えない環境は、この基準でいうと選択肢が減っている状態です。
優秀な人ほど、そこに早く気づきます。
引き止められない理由
辞めると言われてから慌てて待遇を上げても、たいてい戻りません。
- *遅いからです。**
その人はもう「この会社では役職がつかない」という結論を出しています。給料を少し上げても、結論のほうは変わりません。
そして引き止めに成功したとしても、多くの場合1年以内に同じ話が起きます。構造が変わっていないからです。
防ぐには、仕事より先に役職を動かす
では何ができるか。
- *仕事を集中させる前に、権限を渡すことです。**
役職が空いていないなら、せめて「この範囲は本人が決めていい」という線を引く。小さくても構いません。決める経験があるかどうかで、本人の見え方がまったく変わります。
30代でリーダー経験を持てるかどうかが、その後のキャリアを決定的に分けます。マネジメント経験の有無は転職市場で必ず問われるからです。
つまり、権限を渡すことは本人のキャリアを守ることでもあります。 渡さないまま仕事だけ集中させるのは、静かにその人の選択肢を削っている状態です。
もしあなたが「集中している側」なら
読んでいて心当たりがあるなら、確認してほしいことがあります。
今の負荷は、あなたの経歴に変換されていますか。
案件を回した経験が「マネジメント経験」として説明できる形になっているか。人を動かした実績が残っているか。それとも、ただ作業量が多いだけの1年になっていないか。
同じ忙しさでも、この差は決定的です。前者は次に繋がり、後者は繋がりません。
あなたの職場で一番仕事が集中している人に、役職はついていますか。

