「あの人、仕事はできるんだけど、教えるのは下手だよね」
職場でよく聞く評価です。そして、これは悪口ではなく構造的にそうなるという話です。
以前仕事ができない人ほど、教えるのが上手い理由を書きました。今回はその逆側、なぜできる人ほど教えられなくなるのかを書きます。
できる人は、自分の手順を知らない
一番の理由がこれです。
熟練した人は、作業を段階に分けて処理していません。見た瞬間に判断していて、その間の過程が意識に上っていない。
「この資料、どう直せばいいですか」と聞かれて「なんかバランスが悪いから、ここを削って」と答える。本人の中では正確な判断ですが、聞いた側には再現できません。
- *手順として理解していないものは、手順として渡せない。** これは能力の高さゆえに起きます。
逆に、苦労して身につけた人は過程を覚えています。どこで詰まって、何を試して、何が効いたか。だから説明できる。教え上手の正体は、できなかった時期の記憶です。
「なんでできないのか」が分からない
もうひとつ、決定的な差があります。
できる人は、できない状態を想像できません。
自分にとって自明なことが、相手にとってなぜ難しいのかが分からない。だから説明が飛びます。前提を省いたまま話が進んで、聞く側は途中で置いていかれる。
そして本人は「ちゃんと説明した」と思っています。実際、説明はしている。足りないのは説明ではなく、相手がどこで詰まるかの見立てです。
これは意地悪でも手抜きでもありません。わかる人には、わからなさが見えないというだけです。
だから「教えられない=無能」ではない
ここが今日いちばん言いたいところです。
教え方が下手な人を、指導力がないと切り捨てるのは早いです。その人は、別の場所で価値を出しています。
判断が速い。難しい局面で結果を出す。前例のない問題に対応できる。こうした能力と、教える技術は別物です。
- *組織の失敗は、教えるのが下手な人に教育係を任せてしまうこと**にあります。本人も苦しいし、教わる側も伸びない。どちらも消耗して、結局「あの人は教えるのが下手」という評価だけが残ります。
できる人が教える側に回るときの現実解
とはいえ、任される場面は来ます。僕自身、そうなりました。
やってみて効いたのは、教えようとしないことでした。
手順ではなく、判断基準を渡す
「こうやる」ではなく「こういうときは、こっちを優先する」。
手順は調べれば出てきます。調べても出てこないのは判断のほうです。そして判断基準は、できる人が唯一言語化できる部分でもあります。
このやり方はできる上司ほど、仕事を教えないにも書きました。
自分の作業を見せて、質問させる
説明が苦手なら、実演のほうが速いです。
やっているところを見せて、相手に質問させる。質問された時点で、相手は自分の詰まりどころを特定しています。 そこにだけ答えればいい。
説明を組み立てる負担がなくなるので、教える側もラクになります。
「わからないところ、どこ?」と聞かない
これは効きませんでした。
わからない人は、どこがわからないかもわからないからです。この質問は、答えられる人にしか答えられません。
代わりに「この部分、なんでこうしたか説明できる?」と聞く。答えられなければ、そこが詰まっている場所です。
まとめ
できる人が教え下手なのは、自分の手順を意識していないから。
そして、できない状態を想像できないから、説明が飛ぶ。
教え方が下手でも、判断の速さや対応力という別の価値がある。
教える側に回るなら、手順ではなく判断基準を渡し、実演して質問させる。
- *教え上手と仕事ができることは、別の技術です。** どちらが上という話ではなく、必要な場面が違うだけだと思っています。
あなたの職場で「教えるのが下手」と言われている人は、本当に力がない人ですか。
